戦時絵馬について

戦時絵馬について

大寒の候 皆様におかれましては、朝晩の厳しい冷込み、日中の3月並みの気温で体調を崩されてませんでしょうか。

さて、この度の戦時絵馬について、賛否あるとは存じますが、私見を述べさせていただきたいと存じます。

先の大戦で出征された地元兵士、そのご家族やご親族、お勤め先の方々が、大神様の秀吉公に武運長久と戦勝を祈願した3500枚に及ぶ絵馬が、屋根裏に隠すように置かれておりました。

この絵馬を奉納した方々のほとんどは既に帰幽されていると思われます。或る方は戦地で散り、また或る方は心身に大きな傷を受け、引き上げてこられたであろうと考えます。

これらの絵馬は終戦をむかえるまでは、御神前に奉り、毎日欠かすことなく武運長久と戦勝祈願、更には息災延命が祈念されてきたのでありましょうが、敗戦を受けて、当時の宮司の手によって屋根裏にあげられたのではないだろうかと考えます。

それは、神への祈りは惜しくも叶わず、敗戦の状を目の当たりにし、未だ生死も分からぬ方々のことを思うと、この時点で全てを受け入れて願を解き、古式に従い焼納することに躊躇されたのではないかと推察致します。

祈願絵馬とは、願主の思いを神に伝えるものであり、仲執持の立場としては、これまで80年もの長きに渡り隠されていた思いが、神慮により顕現したものであり、今を生きる私たちが、事が終えた節目と理解して、丁寧な祭祀をもって絵馬に込められた願を解き、古例に従い浄化供養で焚き上げることこそ、長く辛かった戦の終わりを迎えるのであろうと信じています。

絵馬は、戦争資料として多大な価値があるとのご意見も寄せられておりますが、本義に立ち帰り、願主の神への赤誠なる真心に応え、神社神道の信仰形態に基づき、正しい形で焼納されるべきと私は考えます。

最後に、この度の戦時絵馬に関して多方面の皆々様には大変お世話になり誠にありがとうございました。

まだまだ寒さ厳しい折、くれぐれもご自愛ください。        

豊国神社 宮司 湯本崇彦